『投資苑』(アレキサンダー・エルダー著)

著者のアレキサンダー・エルダーは精神科医でトレーダー。旧ソ連から米国に亡命。

以下、個人的な備忘録。

トレーディングの心理学

トレーダーが相場に負ける理由は3つ。

①トレーディングというゲーム自体が困難なもの
②トレーダーの勉強不足からくる無知
③規律を欠くトレーディング

コミッションとスリッページ

もともとトレーディング業界(株式投資業界)はコミッション(売買手数料)とスリッページ(成行注文をした時に板の表示よりも不利な価格で約定すること)によってトレーダー(個人投資家)が損をするように設計されている。

したがってトレーディングはマイナスサム・ゲームである。

ペルソナ

個人投資家の平均的な像は「50歳・既婚・大卒」。大学院卒や事業経営者も珍しくない。一方、優秀な個人投資家は、抜け目の無いタイプであるが高校卒業レベルの人が多い。

トレーディングにおいて勝者と敗者を分け隔てるものは、知的水準でもトレーディング知識でも、ましてや学歴でもない。

資金量

敗者は何度かの失敗か1回の致命的な失敗の結果、資金を使い果たしてゲーム続行が不能となる。退場した後にマーケットは反転し、自分が予想した方向に向かうことが多い。そのため「もっと大きな資金があれば踏み止まることができて成功できたのに」と考える。

そして貯金したり借金したお金でトレードを再開するが、同じ失敗を繰り返す。

なぜなら、トレードの敗因は「資金の不足」ではなく「精神の発育不足」だからである。

カリスマ信仰

多くの人は「自由と独立が自分の願い」だと言う。しかし、ひとたび困難に遭遇すると「強力な指導者」を求める。

ピンチに陥ったとレーダーも同じ。

マーケットサイクル教祖

米国株式は概ね4年周期で変動してきた。それに合わせるように新しいマーケットサイクル教祖が出現する。

彼らは投資情報が満載のニュースレターの販売で金持ちになっていく。
しかし長くは続かない。マスコミに登場して注目を浴びたときが彼らのピークである。

新方式教祖

新しいトレーディング技術(道具)を販売して利益を得る。個人投資家は、騎士が剣を買い求めるように、自分のトレーディング道具には大金を払う。

しかし、それらのトレーディング道具は市場では使い物にならないことが露呈する。

死んでこの世にいない教祖

本人は既に死んでいるが「○○の講義録」や「○○のソフトウェア」を担いだ推進者が利益を得る。往々にして教祖の実績は脚色される。彼らの伝説は騙されやすいお客にガラクタを売る者たちによって永遠に語り継がれていく。

この分類には、ラルフ・ネルソン・エリオットやウィリアム・ディルバート・ギャンが含まれる。

ギャンが投資で稼いだ遺産は5000万ドルだと宣伝されているが、著者(エルダー)がギャンの息子に直接インタビューした話では遺産は10万ドルを僅かに上回る程度だった。しかも、トレーディングだけでは家族を養うことができず、本の執筆と講義によって生計を立てていた。

※ウィリアム・ディルバート・ギャンは「ギャンの価値ある28のルール」で有名。テクニカル分析の始祖。

ギャンブル

ジークムント・フロイトによれば、ギャンブルとは普遍的に人を魅了するものであり、マスターベーションの代替物である。習慣性があり、興奮を呼び起こす手を使った行為、抑えがたい欲求、それをやめようという決心、快楽のもたらす陶酔感、そして罪悪感が両者に共通する。

もし1か月の間、トレーディングから遠ざかることができないならギャンブル依存症である。

感情の抑制

あなたのトレーダーとしての成功は、自分の感情をいかにコントロールするかにかかっている。

マーケットは、金塊でいっぱいの金庫室や美女でいっぱいのハーレムを通り抜けるような強い誘惑を人々に与える。同時に、有り金をすべて失ってしまうという強い恐怖心を引き起こす。これらの感情が、チャンスとリスクに対する投資家の感覚を曇らせる。

勝つと大喜びし負けると塞ぎ込むようなトレーダーは感情に支配されているので儲けを蓄積できない。自分の感情の高低をマーケットに委ねてはお金を儲けられない。

マーケットとは何か?

「ブル(強気)とベア(弱気)は儲けられるがブタ(強欲)は殺される」(Bulls make money, bears make money, pigs get slaughtered.)。分不相応に大きなポジションを持ったり、必要以上にポジションを長くもったりすると大損害を被る。

マーケットは人間の巨大な集まり。群集を形成するどのメンバーも他人を出し抜いて彼らのお金を奪い取ろうとしている。誰もが敵対している過酷な環境である。

群集

人々は単独で行動するよりも安全であるため、太古の昔から集団に帰属してきた。現代社会は自由を尊重しているが、状況が不確実であればあるほど集団への帰属と指導者への服従の欲求が高まる。

群集にはトレンドを形成する力があり強力である。しかし原始的であり行動は単純で同じことを繰り返す。

集団に加わるとき、参加者の思考は幼児レベルまで退行して親の後について行くように振舞う。しかし指導者を失った集団は分解し、パニックに陥って自分のポジションを放り投げてしまう。

群集の指導者

マーケットの群集のリーダーは「株価」である。

トレードで成功する人

成功するトレーダーは独立して物事を考えられる人である。群集から離れて個人として思考し行動するときのみ、トレーディングで成功できる。

トレーディング・システム

(テクニカル分析の話なので割愛)

マネー・マネジメント

損切り

損切りできないのは愛着を抱いているため。人は一度購入した物にたいして自然に愛着の情を抱く(賦与効果/Endowment effect)。タンスに吊るしたままの古いジャケットと同じ。

サバイバル

第1の目標はサバイバル。トレーディングの継続遂行が不可能になるようなリスクを回避すべき。第2の目標は利益の確保。第3の目標は利益の積み上げ。

読後感

著者のエルダーは精神科医だけあって個人投資家の心理面への洞察が非常に鋭いですね。大変に勉強になりました。

他の書籍で心理カウンセリング的な側面から株式投資を語る本を読んだことがあり、書評はそれなりに良かったのですが自分的にはイマイチでした。米国ではメンタルトレーニング系の投資本に一定のニーズがあるように思います。本書については腹に落ちる文章が幾つもあり気付きが多くありました。

(了)