『生涯投資家』(村上世彰著)

著者は東大卒業後に通産省に入省。その後ファンドを立ち上げて「もの言う株主」として有名に。

以下、個人的な備忘録。

投資スタイル

私の投資スタイルは、割安に評価されていて、リスク度合いに比して高い利益が見込めるもの、すなわち投資の「期待値」が高いものに投資をすることだ。投資判断の基本はすべて「期待値」にある。

この「期待値」を的確に判断できることが、投資家に必要な資質だと私は考えている。

0円になる可能性が70%であっても、700円になる可能性が30%あれば、期待値は2.1となるのだ。

私は「期待値」とIRRにリスクの査定を加味した3点から、投資するか否かの最終的な判断を行なう。

リスクを査定する際には、定量的な分析よりも定性的な分析が重要なポイントとなる。数字や指標の判断よりも、経営者やビジネスパートナーの性格や特徴を掴むことだ。だからディスカッションを通じて相互の考え方や経営方針を確認し、…数字や契約書には表れない細かい点を深掘りしていくことが重要になる。

オリックス宮内会長

村上氏がファンドを立ち上げる際に宮内会長から「最低1割は自分(村上氏)のお金を入れないと他の投資かは納得しない」とアドバイスされる。

ファンド規模が500億円の時に村上氏に50億円の資産が無いためにオリックスから20億円を借金してファンドに投資をした。オリックスは村上氏のファンド持分を担保に取った上、受取人をオリックスとする生命保険に村上氏を加入させた。その際、生命保険はオリックス生命ではなくて東京海上あんしん生命だった。村上氏が理由を尋ねると「オリックス生命にすると万一のときはオリックスが損をする。だから外部を使う」。

東京スタイル

2000年、NYのフォーラムに登壇した村上氏は米国の投資家から異口同音に「東京スタイルにプロキシーファイトをやって欲しい」と言われた。東京スタイルの高野義雄社長は株主との面談を拒否していて面会できた米国人の投資家は皆無であった。

当時、東京スタイルは時価総額1000億円だが現預金等だけでも1300億円あるキャッシュリッチな企業だった。しかも、株主と向き合わず、経営者が保身に走り、株主価値を鑑みない放漫経営の会社であった。

村上氏のファンドは300億円規模で1案件の上限が2割のため東京スタイルに費やせる資金は60億円であった。

村上氏は高野社長との面談を申し入れたが「社長に会いたければ株主総会に来てください」と断られた。
株主名簿の閲覧請求が拒否されたので裁判所に仮処分を求めてやっと閲覧することができた。外国人投資家の大半はファンドであった。

村上氏は高野社長と面会すべく、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊会長を頼った。高野会長が営業マンだったころ伊藤会長に目をかけてもらいイトーヨーカ堂で扱ってもらえることになって出世したので、高野会長に貸しがあった。結果として村上氏は高野社長に面会できたが、高野社長は終始不機嫌で30分の予定が15分で打ち切られた。

村上氏のファンドは500億円規模になっていたので100億円を使って東京スタイルの株の10%を買った。海外の投資家が持つ40%と合わせればプロキシーファイトに勝つ計算であった。

そんな時、イトーヨーカ堂の伊藤会長から「お前はやり過ぎだ。そんな無茶をするな。高野も呼ぶから一度会議をしよう」という電話があった。ホテルニューオータニに向かうと、伊藤会長とHOYAの鈴木哲夫社長、それにしょぼんとした顔で座っている高野社長が居た。伊藤会長から矛を収めるように言われたが、村上氏は納得せず、結局、伊藤会長が「お前、ここまでセッティングしてやったのに、俺の顔に泥を塗るつもりか!」と激怒して物別れに終わった。

2002年、東京スタイルの株主総会で村上氏は僅差で負けた。

理由は、村上氏が頼りにしていて外国人株主の割合が40%から20%まで大幅に減っていたから。彼らは、プロキシーファイトが始まって東京スタイルの株価が高くなったのをみて株を売り払っていた。

三井住友銀行の西川善文頭取に相談して高野社長を説得してもらおうとしたが果たせず、翌年もまたプロキシーファイトを仕掛けたが村上氏は負ける。

村上氏は商法違反で高野社長に10億円の損害賠償を求める株主代表訴訟を自腹で起こし1億円で和解した。

その後、東京スタイルは自己株取得を発表し、ファンドの資金をいつまでも塩漬けさせていられないので、村上氏は東京スタイル株を売却した。

その他

その他、著者(村上氏)が関わった銘柄は、ニッポン放送、阪神鉄道、サイバーエージェントなど。

著者が大失敗した案件は、中国のマイクロファイナンスとギリシャ国債への投資。

読後感

ニッポン放送株の争奪戦の最中に東京国国際ォーラムで開催されたニッポン放送の株主総会で村上氏ご本人が株主質問をする場面に居合わせたので、個人的には親近感があります。閉会後に村上氏が報道陣にもみくちゃにされるのを横目で見ながら退出しました。その時の過熱感を知り、当時の世間は投資家に対して否定的な感情が強かったことを考え合わせると、村上氏がインサイダー取引で有罪になったのは国策捜査だとしか思えませんが、それも含めて民主主義なんだと思います。

本書は、アクティビスト投資家である村上氏の内情を窺い知ることができて非常に勉強になりました。一気に読めます。お勧め。

(了)