なぜ資産クラスへの分散投資でリスクは小さくなるのか

前の記事で、個別銘柄のリスク(価格変動)は2つのリスクを足したものだと述べました。

前の記事では、投資の世界では、リスク(価格の変動幅)が大きいほど世の中の人々はビビッて市場に参加しないので、需給バランスによって、リスクが大きい資産ほどリターンの期待値が大きくなることを説明しました。 これって、いわゆる「リスク・...

つまり、

  • 個別銘柄リスク = 市場全体リスク(システマティックリスク) + 銘柄固有リスク

でしたね。

このうち、後者の「銘柄固有リスク」は複数の銘柄を組み合わせてポートフォリオを作ることで低減することができ、ある市場(たとえば東証一部)のすべての銘柄を組み合わせると銘柄固有リスクはゼロになります。

なので、日経平均株価やTOPIXのようなインデックス指数を買うと、それは東証一部のうち225銘柄もしくは全ての銘柄を買っているということなので、銘柄固有リスクはゼロになり、残りは「市場全体リスク(システマティックリスク)」だけなので、その状態をざくっと「ハイリスク・ハイリターン」だと定義してもいいでしょう。

逆に言うと、たとえば個別銘柄を1つだけ保有していると、「ハイリスク・ハイリターン」の上に「銘柄固有リスク」だけが乗っかるので「超ハイリスク・ハイリターン」になり、少し割りに合いませんよね。

資産クラス(アセットクラス)

日経平均株価でもTOPIXでもいいのですが、肌感覚で言うと、それらを構成する銘柄はだいたい似たような動きをしますよね。

こういった一つの塊を「資産クラス(アセットクラス)」と呼びます。

同じようなリターンやリスク特性を持つ投資対象の資産種類・分類のこと。国内株式、国内債券、外国株式、外国債券、商品、REITなどがある。
(野村證券)

たとえば「国内株式」は1つの資産クラスですが、これを細分化して「国内小型株」と「国内大型株」をそれぞれ別の資産クラスとするケースもあります。

「外国株式」についても、「先進国株式」と「新興国株式」および(新興国未満の)「フロンティア株式」に別けるのが一般的ですし、「先進国株式」の中でも巨大市場である米国株式を独立させる考え方もあります。

いずれにしても、似たような値動きをする個別銘柄を市場レベルで一括りにしたものが「資産クラス」だと覚えておけば間違いないでしょう。

相関係数

資産クラス単位で過去の値動きを分析すると、ある資産クラスが下がったときに別の資産クラスは上がるという関係性があったりします。

たとえば、国内大型株が値下がりすると日本国債が値上がりする、とか。

この関係性を統計学的に数量化したものを「相関係数」と呼びます。

2つの資産クラスの価格が完全に同じ動きをする(たとえば片方が10%値上がりすると他方も10%値上がりする)場合、相関係数は「+1」になります。

その逆に、2つの資産クラスの価格が完全に反対方向の動きをする(たとえば片方が10%値上がりすると他方は10%値下がりする)場合、相関係数は「-1」になります。

このように、2つの資産クラスの相関係数は「+1」から「-1」までの値のいずれかになりますが、過去のどの期間を分析対象にするかで値は少し異なることもあります。

資産クラスへの分散投資はリスク低減に効果的

前の記事で銀採掘企業とフィルムメーカーの例を挙げました。

両銘柄ともに同じ市場に上場しているという前提だったので、この2つの個別銘柄を同時に購入しても個別銘柄リスクが小さくなるだけで、市場全体リスクは丸々残ったままでした。

それよりも、市場全体の銘柄を買えば個別銘柄リスクはゼロになるので、インデックス指数を買ったほうが(銀採掘企業とフィルムメーカーの2銘柄を買うよりも)リスク低減効果が大きいということでしたよね。

ところが、この銀採掘企業とフィルムメーカーの考え方そのものは、とても大事です。

たとえば「銀採掘企業とフィルムメーカー」の関係を「国内大型株と日本国債」に置き換えてみましょう。

「国内大型株」と「日本国債」の相関係数は「-0.34」です(出典はJ.P.モルガンAM)。

つまり、日本国内の大型株(たとえば日経平均株価とか)が値上がりすると、日本国債は値下がりする傾向にあるということですね。「-0.34」という値は「負の相関がそれなりに存在する」という感じでしょうか。

国内大型株と日本国債を組み合わせたポートフォリオの合成リスクは両者の各リスクを加重平均したリスクよりもかなり小さくなります。なぜなら、両者の相関係数は「-0.34」だからですね。

他方、このポートフォリオのリターンは両者の各リターンを加重平均した値そのものです。リスクとは違って、リターンは加重平均したままで、それより下がることはありません。

これ、重要ですよね。

負の相関がある2つの資産クラスを組み合わせてポートフォリオを作ると、リスクは大幅に下がるがリターンはそれなりにしか下がらない、ということになります。

「銀採掘企業とフィルムメーカー」の例は、ともに同じ市場に上場していたので市場全体リスクを低減することはできず、したがって効果は限定的でした。

しかし、この考え方を資産クラスに持ち込むと、効果は劇的に大きくなります。なぜなら、市場全体リスクに相当する「低減できない大きなリスク」というものが無いからですね。

「銀採掘企業とフィルムメーカー」は同じ土俵の上なのでリスク低減効果は限定的でしたが、「国内大型株と日本国債」は違う土俵なのでリスク低減効果は大きい、という感じでしょうか。

国内大型株が「ハイリスク・ハイリターン」、日本国債が「ローリスク・ローリターン」だとすると、両者を組み合わせたポートフォリオはざくっと「低めのミドルリスク・高めのミドルリターン」みたいなイメージになります。

単なる「ミドルリスク・ミドルリターン」ではない点が重要です。

まとめ

「国内株式」や「米国債」などのように似たような値動きをする塊を「資産クラス」と呼びます。

2つの資産クラスの値動きを統計学的に数量化したものを「相関係数」と呼び、完全に同じ動きをすると相関係数は「+1」、真逆であれば「-1」になります。

2つの資産クラスの相関係数がマイナス(負の相関)であれば、このポートフォリオの合成リスクは両者の各リスクを加重平均したリスクよりも小さくなります。

しかし、このポートフォリオのリターンは両者の各リターンを加重平均した値です。

つまり、負の相関がある2つの資産クラスを組み合わせてポートフォリオを作ると、リスクは大幅に下がるがリターンはそれなりにしか下がりません。

つまり、単なる「ミドルリスク・ミドルリターン」ではなく、「低めのミドルリスク・高めのミドルリターン」を実現できる余地があります。