『投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識』(ハワード・マークス著)

著者のハワード・マークスはオークツリー・キャピタル・マネジメントの共同創業者。同社の運用資産は約16兆円(2020年)。本書はバフェットが「極めて稀に見る、実益のある本」と賞賛し、大量購入した本書をバークシャー・ハサウェイの株主総会で配布。

株式投資のハウツー本ではなく投資哲学の啓蒙書。系統で言えば逆張り手法。ただしバランスが取れている。良書。

以下、個人的なメモ。

効率的市場仮説について

私の結論はこうだ。より効率的な市場はしばしば資産の価値を見誤るが、ほかの参加者と同じ情報をもとに動き、同じように心理的な影響を受ける個人が、コンセンサスとは異なる、そして、より正確な見方を持ちつづけるのは容易なことではない。だからこそ、市場がいつも正しいわけではないにもかかわらず、主流の市場でアウトパフォームすることはきわめて難しいのである。

企業には本質的価値がある。しかし株価と本質的価値は必ずしも同じではない。株価は需要と供給で決まる。その株を欲しい人が多ければ株価は上がる。

仮に今の株価が本質的価値よりも少し高いとする。そこに「株価は割高だ」と真実を見抜いた個人がいたとしても、株価が更に上昇すると自分の意見に自信を持てなくなる。もし彼(彼女)が「株価は割高だ」という正しい判断に基づいて株を売却したとしても、「株価はまだ割安だ」という誤った認識の大衆が株を買えば、株価は上昇する。つまり彼は市場をアウトパフォームできない結果となる。

本質的価値

バリュー投資家は現在の本質的価値を重視する。グロース投資家は将来の急増した本質的価値を重視する。

投資家の心理

無知な投資家は、単純に正しいことを正しいタイミングで行うのに必要な強い意志を持つことができない。周りの人がみな株を買い、カネを儲けている状況において、株価が上がりすぎたことを理解し、その輪に加わるのをやめることなど不可能だ。また、株価が急落しているときに、持ち株を保有しつづけたり、大幅に低下した価格で買ったりするのに必要な自信を持つこともできないのだ。

無知な投資家は企業の本質的価値を知る努力をせずにうわべの株価しか見ない。知り合いが株で儲けた話を聞いて自分も儲けたい一心で株を買う。株価が本質的価値よりも大きく割高であることを知らないので株を売って手仕舞いすることは出来ない。

株価が急落した時も同じ。保有する株の株価が下がって本質的価値よりも割安であると理解できずに狼狽売りをしてしまう。暴落した他の銘柄を見ても本質的価値が分からないので購入する勇気が持てない。

投売りする人から買うことはこの世で最良の選択肢だが、投売りする側になるのは最悪の道である。したがって、最悪の時期に資産を売らずに保持できるよう、やりくりすることが不可欠だ。そのためには長期資本と心理的な強さが必要となる。

株価が暴落して狼狽売りする投資家から株をバーゲン価格で買うことが株式投資での必勝法である。そのために自分のポジションは長期的に投資に使える余裕資金で購入した株式にして、なおかつ暴落した銘柄を購入するために現金比率を上げておくことが望ましい。さらに投売りする大衆に対して買い向かうことができる心理的な強さも必要である。

すべてが順調で価格が高騰しているとき、投資家は慎重さを忘れ去り、買いに殺到する。その後、市場が混乱に陥ると資産はバーゲン品となり、投資家はリスクをとる意欲を完全に失って、売りに殺到する。この繰り返しが永遠に続くのだ。

私は『賢明な人が最初にやること、それは愚か者が最後にやることだ』という古い格言が好きなのだ。

超強気相場で賢人は株を売却して利益を確定する。それに気づかない愚人は株が暴落した後に売却して損失を確定させる。

サイクル

古典的な日本文化の中で大事にされてきた価値観に「無常」がある。…変化や栄枯盛衰は避けられないと受け入れることを示している。言い換えると、無常とは、サイクルが上下動し、物事が現れたり消えたりし、環境が我々のコントロールが効かない形で変化することを意味している。だから、我々はそれを認識し、受け入れ、そうした変化に対処や対応をしていかなければならない。これはまさに投資の本質ではないだろうか。

言われてみると確かに世の中は諸行無常。株価は本質的価値の周囲を上下変動する。それが株式投資。深い。なお著者のハワード・マークスはペンシルベニア大学ウォートン・スクールで日本学を副専攻で学んでいる。

投資の世界において、サイクルほど信頼に足るものはない。ファンダメンタルズ、心理、価格、リターンには浮き沈みがあり、そのサイクルが過ちを犯す機会、あるいは他人が犯した過ちに乗じて利益をあげる機会を生み出す。それは当然の成り行きなのだ。…この先どうなるのかは知る由もないかもしれないが、今どこにいるかについては、よく知っておくべきだ。つまり、サイクルが変動するタイミングや振れ幅は予測できなくても、我々が今サイクルのどの位置に立っているのかを解明し、その結論にしたがって行動するよう努めることが不可欠なのだ。

経済の成長にともなって企業の本質的価値は緩やかな右肩上がりである(歴史的には年6%)。しかし株価は本質的価値とは乖離して大きく上下変動する。歴史的に見れば10年に1回のペースで暴騰と暴落のサイクルが存在する。このサイクルそのものに疑いの余地はない。否定する投資評論家や学者の書籍を読んだことが無い。

そして、暴騰時に株を売り、暴落時に株を買えば大儲けできる。これもまた真理である。

しかし問題が1つある。それは、いつ暴落(暴騰)が始まり、どこまで下がり(上がり)、いつ終わるのか、を誰も正確に予想できないということである。実際に暴落を予想したと主張する学者もいるし、逆張りで大儲けした投資家もいる。しかし彼らは生存者バイアスでしかない。端的に言えば「まぐれ当たり」である。暴落(暴騰)をピンポイントで当てられると主張する人を信じてはいけない。

では投資家にできる最善の策は何か。それは今サイクルのどの位置にいるかという現状把握である。例えばS&P500のシラーPERが過去平均で16倍なのに現状が38倍であれば、市場は過熱しており、いつ暴落が起きるかは予想できなくとも近いうちに暴落が起きる確率は高くなっていると理解できる。

そうであれば、信用買いを手仕舞いし、ブル3倍のETFを売却し、現金比率を高めるなどの準備をしたほうが賢明なのは明らかである。

再現性

時として、起こりそうもない、あるいは不確実な結果が起きるという危険な賭けをした者が、天才のように評価されることがある。だが、それは幸運で大胆だったがために実現したのであり、スキルがあったからではないと認識すべきだ。

著者がバフェットの言葉として引用している話を分かりやすく書き換えればこうなる。

105万人が参加するジャンケン大会があったとする。毎日1回、100円を賭けてジャンケンをし負けた人は退場する。20日後に勝者が1人決まり1億500万円を手にする。そして勝者は『3週間で1億円を稼ぐ方法』という本を出版し講演会のチケットを販売する。どこかで聞いた話。

読後感

株式市場にはサイクルが存在する。その動きを見極めて株安の局面で購入し株高の局面で売却するのが逆張り派。大御所はジョン・M・テンプルトン。

本書の著者(ローレン・C・テンプルトン)は、ジョン・M・テンプルトン卿(1912年 - 2008年)の実兄の孫娘(又姪)に当たる人物で、内輪で語られた逸話も散りばめられています。 テンプルトン卿が1954年に設立したテンプルトン成長株...

そのマーケットタイミングを分析した書籍の1つがベン・スタインとフィル・デムースの共著。

著者はベン・スタインとフィル・デムース。投資関連の書籍を日本で多く出版しているパンローリング社の書籍。あまり期待せずに手に取ってみたが掘り出し物の良書でした。 署名から想像されるような「テクニカル分析を使った個別銘柄」等とは無縁の内容...

本書のハワード・マークスは、株価のサイクルは存在するがマーケットタイミングを正確に読むのは困難だという立場。しかし暴落に備えて準備をしておくことが賢明。バランスが取れた見解で奥が深い。

(了)