ラッセル2000指数
日本で米国株式のインデックスとして「S&P500指数」「NYダウ」「NASDAQ」の3つの指数をよく目にしますが、それに準じる指数として「ラッセル2000指数」があります(自分がよく利用する米国Yahoo!Financeではこの4指標が常にヘッダに表示されます)。
それぞれをざくっと説明すると、
- S&P500指数:米国を代表する500銘柄の大型株で構成され、時価総額ベースで米国市場の約80%をカバー。
- NYダウ(ダウ工業株30種平均):主要業種の代表的な30銘柄で構成される。1928年からの連続性が特徴。
- ナスダック総合指数:米国ナスダック市場に上場する3,000超の全銘柄で構成される。ハイテク企業やネット企業に偏重。
- ラッセル2000指数:米国市場において時価総額が上位1001位から3000位までの2000銘柄で構成される。代表的な小型株指数。
という感じでしょうか。
この4指標を1988年から直近までチャート化したものが下記になります(米国Yahoo!から拝借)。
ナスダック総合指数(緑色)の伸びが大きく、米国市場で過去10年余りはとくにハイテク産業の成長が著しいことが分かります。
S&P500指数(赤色)とNYダウ(青色)は米国市場を広くカバーしているため(対象の銘柄数が大きく違っていても)似たような推移になっています。
ラッセル2000指数(黒色)は小型株でのみ構成されていて大型株(上位1000銘柄)は入っていないのですが、チャートを見た範囲ではS&P500指数(赤色)やNYダウ(青色)と同じような動きになっていますね。
ラッセル1000バリュー指数とラッセル1000グロース指数
ところで、ラッセル社(米国フランク・ラッセル社)は小型株指数としてデファクトになっている「ラッセル2000指数」の他に、米国市場において時価総額が上位1000位までの大型株1000銘柄で構成される「ラッセル1000指数」や、上位3000位までの3000銘柄で構成される「ラッセル3000指数」も提供しているのですが、これらはイマイチ有名ではありません。
ただし、ニッチではありますが「ラッセル1000バリュー指数」と「ラッセル1000グロース指数」はそれなりに有名かと。
両者を簡単に説明すると、
- ラッセル1000バリュー指数:大型株である「ラッセル1000指数」の中で、株価純資産倍率(PBR)が低くて割安な反面、将来の成長があまり高くないと想定される銘柄で構成。
- ラッセル1000グロース指数:大型株である「ラッセル1000指数」の中で、株価純資産倍率(PBR)が高くて割高な反面、将来の大きな成長が見込める銘柄で構成。
となり、バリュー銘柄とグロース銘柄を分析するときはこの両指標がよく用いられます。
グロース銘柄はバリュー銘柄よりもハイリスクか?
とりあえず、ラッセル1000バリュー指数(青色)とラッセル1000グロース指数(赤色)をグラフ化しました。期間は1993年03月から2020年12月までの334ヵ月間です。
上図を見ると、ラッセル1000グロース指数(赤色)の方がラッセル1000バリュー指数(青色)よりも上下変動が大きいので、グロース銘柄はバリュー銘柄よりもボラティリティが大きい、つまりハイリスクだと言えそうです。
念のために、ラッセル1000グロース指数とラッセル1000バリュー指数のそれぞれについて、月末最終営業日(当月末)の終値について前月末からの変動率を分析してみました(n=333)。
MS-Excelの「基本統計量」は下表のとおりです。
ここにある「分散」とは数値データのバラツキ度合いを表すものですよね。
ラッセル1000バリュー指数とラッセル1000グロース指数の「分散」はそれぞれ「0.00188922」と「0.002376238」なので、グロース銘柄はバリュー銘柄よりも(月単位での)収益率の動きが大きい、つまりハイリスクということになります。
また、収益率をヒストグラムにしてみました。
ラッセル1000バリュー指数(青色)が中央に集まっているのに対し、ラッセル1000グロース指数(赤色)は広がりが大きいように思われます(特にプラスの部分)。
やはり、グロース銘柄はバリュー銘柄よりもバラツキが大きいのでハイリスクだと考えられますよね。
余談ですが、基本統計量の「歪度」がバリュー指数とグロース指数のいずれもマイナスとなっていて、ヒストグラムでも確認できるように左裾が長く歪んでいます。これは、株価が落ちるときは勢いよくどーんと落ちる傾向があることを物語っています。
で、話を元に戻すと、
- グロース銘柄はバリュー銘柄よりもハイリスクか? → YES
で問題がなさそうです。
グロース銘柄はバリュー銘柄よりもハイリターンか?
先ほどの基本統計量の「平均」を見ると、
- ラッセル1000バリュー指数:0.005305597(年6.6%)
- ラッセル1000グロース指数:0.007320886(年9.1%)
となっています。
なので、この期間(1993年03月から2020年12月まで)を見ると、グロース銘柄のほうがハイリターンという結果になります。
このことはグラフを見ても明らかで、両者がほぼ同じような株価だった2017年頃を境にしてグロース指数がバリュー指数を大きく引き離していますよね。
なので、とりあえず、
- グロース銘柄はバリュー銘柄よりもハイリターンか? → YES(少なくともここ数年は)
という感じでしょうか。
ただし、注意したい点が2つあります。
配当金
1つめは、配当金の違いです。
みなさんご存知のように、株式投資のリターン(収益)にはインカムゲイン(配当金)とキャピタルゲイン(株価の値上り)の2つがあります。
今までの分析は株価データのみを対象にしていて、インカムゲイン(配当金)は考慮していません。
配当金についてはバリュー銘柄のほうがグロース銘柄よりも多いと考えられ、実際にETFの直近の配当金(分配金)を見てみると、
- IWD(iShares Russell 1000 Value ETF):2.05%
- IWF(iShares Russell 1000 Growth ETF):0.66%
となっています。
つまり、配当金についてはバリュー銘柄のほうが年間1.4%ほど多いということなので、両者の差(9.1%-6.6%=2.5%)は縮まることになります。
グロース株とバリュー株の収益スプレッド
下図は、グロース株の収益率からバリュー株の収益率を引いた値を時系列でグラフ化したものです。
0%よりも上にあるときはグロース株のパフォーマンスが優れ、下にあるときはバリュー株のほうが優れているということですね。
過去28年のグラフには山谷が多く、常にグロース株のパフォーマンスが優れているわけではありません。むしろ拮抗している感じがします。
株価(指数)チャートにおいてグロース指数がバリュー指数に大きく差をつけている原因は、2019年10月から2020年08月まで11ヶ月連続でグロース指数の収益がバリュー指数の収益を上回ったためです(収益スプレッドのグラフにおいて赤丸で囲んだ部分)。
これは偶然なのか? それとも必然なのか?
この収益スプレッドのグラフをどう読むかは難しいところですが、個人的には、偶然なのではないかと。
つまり、グロース銘柄とバリュー銘柄のリターンについては大きな違いはないということですよね。
なので、
- グロース銘柄はバリュー銘柄よりもハイリターンか? → 実はよく分からない
というのが個人的な見解になります。
実践的な売買方法
結局のところ、自分の中では
- グロース銘柄はハイリスクだけど、ハイリターンかどうかは分からない
という結論になりました。
ただし、これは「グロース銘柄をずっと握り締める」という前提のお話です。
実践においてリスクを多めに負えるのであれば、勢いがついたときのグロース銘柄は爆上げするので、波に乗れるときはそれに乗って、少しヤバそうだと思えばバリュー銘柄に乗り換え頭を低くして嵐が来る(そして過ぎ去る)のを待つという方法がいいのではないかと。
この辺りの考え方については「株式の売却タイミング」記事をお読みいただければ幸いです。