どのタイミングで株式を売却すればいいのか?、という疑問に対する答えは株式投資において最も難しいのではないかと思います。
2年半前の記事で、
結論から言うと、買った資産を売却するための出口戦略はありません。
資産は長く持てば持つほど利益を生むので、基本的にはそのまま保有し続けて、どうしてもお金が必要になったときに初めて現金化するのがいいかと。
…
ただし、バブル崩壊が近いと自信があるなら、現金化して避難しておくのもいいでしょう。
と書きました。
基本的にこの認識は今も変わらず、先日、山崎元さんがYouTubeで同じ趣旨の話をされているのを聞いて気を強くしました。
・「売り」を出来るだけ少なく済ます方が運用は効率的だ
・お金が必要な時に部分的に「売る」といい
・資産価格が高過ぎる根拠に自信がある場合に、少し売ってもいい『「売り」を判断する三つのポイント』(山崎元)/2019年02月28日
前提を少し補足して自分が書いた昔の記事を解説すると、
- 「資産」とは「お金(資)を産むもの」のこと。具体的には株式や不動産。
- 資産から得られる利益の期待値は年5%(トマ・ピケティ『21世紀の資本』)。
- なので、資産(株式)は保有し続けることに意味がある。
- 株式を売却するのはお金が必要になったときのみ。
- ただし、株価の暴落を予見できるなら、この限りではない。
という戦略になります。
ところで、記事を書いた時点(2018年07月20日)では、バリュー株(割安株)の銘柄を圧倒的に多く保有していました。
なので、それ(バリュー株の保有)を前提とすれば今でも上記の考え方で(僭越ながら)合格点だと自信を持っているのですが、最近は米国株式を中心にグロース株(成長株)も保有しているので、上記の考え方を少し精緻にしてみたいと思います。
バリュー株とグロース株
みなさんご存知のように、そもそも、バリュー株とは、
本来の価値から見て割安な株式のこと。株価判断のモノサシとして、PER、PBR、ROEがある
東海東京証券
のことであり、グロース株とは、
企業の利益成長が市場平均よりも高いと期待できる銘柄
東海東京証券
のことをいいます。
バリュー銘柄は地味であるため値動きは小さめです。
株価の上下変動のことを「ボラティリティ」と呼びますが、バリュー銘柄はボラティリティが大きいということですね。
そして、株式投資での「リスク」とは、このボラティリティ(価格変動)のことに他ならないので、つまり「バリュー株は低リスク」だと言えます。
自分は早期リタイアをして配当金生活をしている身の上なので、リスクを極力抑えたいという理由から、ポートフォリオに占めるバリュー銘柄の割合が非常に高くなっています。
他方、グロース株は派手であるため値動きが大きく、したがって高リスクだといえるでしょう。その分、テンバガー株(十倍株)のように一発狙えることが魅力だと思います。
バリュー株とグロース株は善し悪しの問題ではなくて、単なる好き嫌いの問題だと思いますが、両者にはそれぞれに特徴があり、たとえば市場がクラッシュしたときはバリュー銘柄のほうが耐性が高い(値崩れが限定的)と考えられています。
経験則を言うなら、バブル崩壊的な下げ相場ではバリュー株が相対的に有利であり、産業構造の変化を伴う上げ相場ではグロース株が有利である場合が多い。
山崎元さん/2020年12月22日
そうであれば、大前提として常に株式のロング(買い)ポジションをキープしつつも、株式市場が下落しそうな予兆があればその危なさ加減に応じてグロース株からバリュー株へ乗り換え始めるという戦術も有効かと。
乗り換えで暴落時の耐性を高めておく
相場の暴落をピンポイントで予測するのはほぼ無理だと思いますが、「長期金利の上昇」や「インフレ率の上昇」などの幾つかのサインをモニターすることによって暴落が近そうだという予兆は肌で感じることができると思います。
その深刻度に応じて、徐々に
- グロース株を売却してバリュー株を購入する(乗り換える)
という作業を怠らなければ、株式市場がクラッシュするという事態に直面しても手持ちのポートフォリオには耐性の高いバリュー銘柄が多いためダメージを最小限に抑えることが可能となります。
暴落が来ない場合の機会損失も回避
また、この手法の優れた点は、(銘柄を乗り換えるだけで)ロングポジションそのものは解消していないため、もし暴落が来ない場合でも株式を保有していないことによる機会損失(資産から得られるはずの利益を失うこと)を避けられるということでしょうか。
暴落の確信があるなら現金化
相場が暴落する予兆をひしひしと強く感じて何らかの確信があるのであれば、保有している銘柄の一部を売却して現金保有率を高めておくのも悪くないと思います。
自分の経験でいうなら、株式が暴落してバーゲン価格で購入できた局面は2回あります。
1回目は2008年のリーマンショックのときで、米国株式はパニックになってすべて売却、日本株式はほとんどがバリュー銘柄だったので我慢してすべて保持、その上で米国株式の売却代金と銀行の定期預金を解約したお金をバーゲン価格の日本株式に突っ込んで何とか含み損を解消してプラスにできました。
2回目は2020年03月のコロナショックのときで、米国株式と日本株式は狼狽売りせずそのまま保持し、軍資金として長期米国国債ETFを売却したお金でバーゲン価格の米国株式を購入できました。
バーゲンに参加できること自体とても楽しいですし、バーゲン価格で購入した銘柄は上昇局面でたっぷり含み益ができて精神的にも楽ですよね。
自分のような個人投資家は(プロとは違って)株式投資をする上でワクワク感があったり精神衛生上プラスになることそのものにも価値があると思います(消費するのが前提ではなく期待値としてはお金を稼げる趣味という感じでしょうか)。
そういう意味で、アグレッシブに攻めるなら、グロース株を売却してできた現金の一部はバリュー株の購入にまわさずに、暴落時の購入資金に取っておくというのもいいかと。
そう考えると、冒頭に書いた戦略は、
- 「資産」とは「お金(資)を産むもの」のこと。具体的には株式や不動産。
- 資産から得られる利益の期待値は年5%(トマ・ピケティ『21世紀の資本』)。
- なので、資産(株式)は保有し続けることに意味がある。
- 株式を売却するのはお金が必要になったとき。
- 株価が暴落しそうなら、グロース株を売却してバリュー株を購入する。
- ただし、暴落を確信したなら、一部を現金化して暴落に備えるのも可。
という感じになります。
もちろん、ハイパーグロース株を保有していれば早めに動くことを忘れずに。
結局、「株式の売却タイミング」とは?
ちなみに、米国株のアナリストとして活躍している広瀬隆雄さんのTwitterに
米国の景気拡大局面は、野球で言えば「9回の表」くらいに来ている。長期ブル相場も「9回の表」くらいに来ている。ここでカンカンの強気になるのは能天気なアホンダラだけ。ポートフォリオの一部をディフェンシブにシフトし、キャッシュポジションをちょびっと引上げ、粘れるだけ粘ること。全売りも×
広瀬隆雄さん/2018年12月07日
とあり(実際に2019年の前半に不況になったか否かは別にして)、相場の終わりが見えてきたら強気から転換してグロース株をバリュー株(ディフェンシブ銘柄)に買い換えて現金比率も上げておくのがいい、というアドバイスですよね。
よく分かります。
いずれにしても、株式市場の暴落を確実に予見できない以上、それに怯えて買いポジションを解消してしまうと機会損失がだらだらと続くわけで、基本は買いポジションを継続するということですね。
保有している株式をすべて売却する(ノーポジ)という意味での「株式の売却タイミング」というのは基本的に存在せず、ポートフォリオの中で暴落時の耐性が低いグロース株の比率を下げるという意味での「株式の売却タイミング」は存在するということになります。
さらにアグレッシブに攻めるなら、暴落時のバーゲンセール用の軍資金を(株式を売却して)少し用意しておく、ということでしょうか。