『ピーター・リンチの株の教科書』(ピーター・リンチ著)

著者のピーター・リンチはフィデリティ社の「マゼラン・ファンド」を運用した伝説のファンドマネージャーです。

ピーター・リンチが運用した1977年から1990年までの間、マゼラン・ファンドはS&P500をダブルスコアでアウトパフォームしています。

本書の原題は「LEARN TO EARN: A Beginner’s Guide to the Basics of Investing and Business」で、直訳すると「お金の稼ぎ方を学ぶ(投資とビジネスの基礎についての初心者ガイド)」という感じでしょうか。以前に国内で『ピーター・リンチのすばらしき株式投資』という書名で出版されたものを改題した書籍です(同じ内容)。

冒頭でピーター・リンチが

アメリカの中学、高校の教科書には、最も大切な講座が1つ欠けています。”投資”がそれです。これは驚くべきことです。歴史は教えても、資本主義の壮大な歩みや、私たちの生活が変化(ほどんどの場合は進歩)していくうえで会社が担ってきた役割についてはほとんど教えていません。数学は教えても、会社や株式について知るために必要な簡単な応用が欠けています。会社の概要、業績、その会社の株を買うと儲かるのかどうか、などと考えてみるときに役に立つ、経済面への応用が欠けているのです。

と述べているとおり、本書は米国の中学生または高校生向けの教科書(または副読本)的な位置づけになります。

「どの株を買えば良いのか?」とか「株で勝つための必勝法」とかはまったく書かれていません。「マゼラン・ファンド」についても一切触れられていません。それを期待して本書を読むと失望します。

逆に、米国株投資をする上で歴史的な流れをざくっと知りたいというニーズに対しては、平易な語り口でサクサク読めるのでお勧めです(ただし情報は原著が執筆された1995年まで)。

以下、個人的なメモになります。

米国の経済史

米国で最初の公開会社はバンク・オブ・ノースアメリカ(1781年)。ニューヨーク証券取引所に最初に上場した企業はバンク・オブ・ニューヨーク(1784年)。2番め以降は、バンク・オブ・ボストンとバンク・オブ・US(連邦銀行)。独立戦争後前は米国は英国から銀行経営を許されていなかったため。

1815年時点の上場会社は24銘柄。ほとんどが銀行で、他には保険会社やガス会社など。

1835年には121銘柄。鉄道会社ブームが到来したが1836年に鉄道バブル崩壊。その後、1853年と1857年にも暴落。

この頃の米国株式の半分は外国人が保有(主に英国人)。1851年にロンドンで開催された第1回万国博覧会で米国の「マコーミックのコンバイン」「サミュエルソン・コルトの連発ピストル」などが好評で、欧州が米国を工業国として評価し始める。

1869年には145銘柄まで増加。この頃、トーマス・エジソンが発明したティッカーテープによって株価が全米に伝わるようになり(毎秒1文字)、以降、株式投資の大衆化に貢献する。

前後して、生活に密着した発明が次々と実用化された。タバコ巻き機械を導入して成功した農家のジェームス・デューク(名門デューク大学を創始)、コンデンスミルクの製造機械(ボーデン社)、スープ用缶詰機(キャンベル社)、石鹸製造機(アイボリー石鹸/P&G社)など。

ブランド企業も登場。アメリカン・ビスケット社とニューヨーク・ビスケット社が合併したナショナル・ビスケット社(ナビスコ)、ヘンリー・J・ハインツが考案したトマトがベースのケチャップ、菜食主義者のジョン・ケロッグ博士が考案したシリアル(ケロッグ)など。これらを販売するスーパーマーケットが増加し、同時にカタログ販売も増えた。

1873年に証券ブローカー数社が倒産し、ウォール街がほぼ壊滅する経済危機が発生。被害者の大半は欧州人。その後、1893年に鉄道会社の大量破産、1903年にも小さい危機。

1929年のニューヨーク証券取引所は「狂騒の20年代」を経て時価総額870億ドルで世界最大規模(PERは32.6倍)。ウォール街大暴落により、1929年9月3日から1932年7月8日までの下落率は89%。

その後、第二次世界大戦を経て米国は復活。

その他

メイフラワー号の資金提供者

ロンドンの資産家であるトーマス・ウェストンが「ピルグリムが週4日で7年間働いて利益を折半」という条件で渡米のための最初の資金を提供した。その後「週6日労働」という条件変更に反発してピルグリムは見切り発車。米国に到着してからも資金不足でジョン・バイアースが中心となった投資グループから借金。結局は投資失敗で1800ボンドで和解(投資家が保有する開拓プロジェクトをピルグリムが安価で買収)。

Limited

米国では「Company (Co)」または「Incorporated (Inc)」、英国では「Limited (Ltd)」。英国の「Limited」はオーナー(株主)が有限責任であることから。有限責任であるのは米国でも同様。無限責任だと誰も株式に投資をしない。ちなみに英国の「Plc」は「Public Limited Company」の略称。

(了)