『バフェットとソロス 勝利の投資学』(マーク・ティアー著)

著者のマーク・ティアーは著述家(兼投資家)。ウォーレン・バフェットとジョージ・ソロスの投資手法を比較して共通点をまとめた書籍。具体的な投資戦術というよりも投資に臨む姿勢について詳しく書かれています。

元本の確保

ウォーレン・バフェット(オマハの賢人)は元本確保について、

  • 投資のルール①:決して金を失うな。
  • 投資のルール②:ルール①を絶対に忘れるな。

と語っている。バフェットの父親は大恐慌の中で働いていた銀行が破綻して失業と同時に無一文になり、子供の頃から大変な苦労をしたため。

ジョージ・ソロス(イングランド銀行を破綻させた男)の哲学は、

  • まず生き残れ。儲けるのはそれからだ。

ということ。ユダヤ系ハンガリー人の一家はナチス侵攻で命の危機にあった。しかし元兵士でロシアのシベリア捕虜収容所から脱出した経験がある父親の「まず生き残れ」という信念で一家は全員生き残った。そういう原体験に基づいている。

バフェットの投資手法

バフェットは当初はベンジャミン・グレアム的な投資手法であった。つまり、財務諸表をメインにして個別の深い調査はせずに数をこなして多くのシケモク銘柄を購入した。

この考え方にフィリップ・フィッシャー的な投資手法を加えたのが盟友のチャーリー・マンガーであった。つまり企業を徹底的に調べ上げて将来の利益を予想し企業の本質的価値を推測した。バフェット自身は「グレアム85%・フィッシャー15%」と語っている。

※グレアムが企業の解散価値で評価するのに対しフィッシャーはDCF法(割引キャッシュフロー法)のようなもの。

ソロスの投資手法(再帰性理論)

その時々の支配的な偏った通念が市場価格に影響を与える。そうした支配的な偏った通念がファンダメンタルズに影響を与え更なる市場価格の(同じ方向への)変化を呼ぶ。
例えば株価が上昇すれば投資家は散財し企業の売上高や利益が増加する資産効果が該当。逆に、タイ・バーツ暴落(1997年)の時のように下落方向にどんどん進むこともある。

ソロスは「思い込み→ファンダメンタルズ→思い込み→ファンダメンタルズ→思い込み→…」というフィードバックループが続かないと「暴騰」という現象は起こらず、したがって「暴落」という現象もないと考えている。

たとえば米国で不動産投資信託(REIT)が解禁されたとき、この再帰性理論を当てはめた。第1段階(市場で取引されるリートの数量は急速に増加)においてソロスは投資を開始する。第2段階(リート経由で新規資金が流入して住宅ブームが起きる。リートはさらに上昇)においてチャート分析(テクニカル分析)の投資家が集まってくる。ソロスは既にそこに居るが集まってくる投資家を見てポジションを増やす。第3段階(建築融資市場でリートが大きなシェアを得るまで続く)でソロスは手仕舞う。第4段階(暴落)でソロスは空売りで更に儲けた。

分散投資

  • 分散投資は無知に対するヘッジだ。自分で何をやってるか分かっている者にとって分散投資はほとんど意味がない。(バフェット)

本質的価値が株価よりも大幅に安い銘柄を1つ見つける方が2つ見つけるよりも簡単である。そのような銘柄を多く見つけることは無理。したがって分散投資は(バフェットのように本質的価値を知る者にとっては)無意味。

バフェットはコカコーラのように本当に好きな会社を見つけたときは買えるだけ買った。

ソロスは購入したジャガー株が順調に上がっているのを見て25万株の買い増しをした。「買った株が上がったらもっと買うんだ。組入れ比率がどんなに大きくなろうが知ったことじゃない。自分が正しいことがわかったら積み増しだ」。

流儀の確立

  • 自分が何をやっているか知っておけ。(グレアム)
  • 神様と違って、市場は自分が何をやっているかを分かっていない者をお許しにはならない。(バフェット)
  • 自分が何をやっているかちゃんと分かるまでは何もするな。(ジム・ロジャーズ)

成功した投資家はそれぞれの専門や特定の投資スタイルを持っている。

自分で探す

バフェットもソロスも自分が投資したい銘柄を自分自身で探す。

忍耐

  • 秘訣は、することがないときは何もしないことだ。(バフェット)
  • 成功するためには暇な時間が要る。両手にたっぷり余るぐらいの時間が必要だ。(ソロス)

証券アナリストは何もないときでもレポートを書き続けて給料をもらっている。投資ニュースの執筆者は推奨銘柄がなくても締め切りが来れば記事を書く。

ファンドマネージャーも同じ。株価が高騰して明らかに割高なときでも常にポジションを持っている必要がある。現金化できずに保守的な銘柄にシフトするぐらいしか出来ない。

バフェットやソロスは現金比率を高めて何もしない。

※他方、相場の過熱局面において、個人投資家は自分で理解していない銘柄を買って、相場に一喜一憂し、暴落すると狼狽売りをしがち。「小人閑居して不善をなす」(『大学』伝六章)。自戒。

行動

  • 何か納得いくものが見つかったら、とても素早く、とても大きく動く。(バフェット)

良い銘柄が見つかったら直ぐに大胆に行動すること。

出口戦略

買う前にいつ売るかを知っておくことが必要。売却タイミングの候補は以下のとおり。

  • 購入時の基準を満たさなくなったとき。(たとえば割安銘柄の株価が本質的価値まで上昇したとき。)
  • 購入時に想定したことが完了したとき。(たとえばバフェットが買収裁定取引において買収が完了した時あるいはソロスがポンド切下げを予測し実際にポンドが切下げられたとき。)
  • 自分の間違いに気付いたとき。
  • テクニカル分析による売りシグナル。
  • 機械的な投資による売却。(たとえば10%下落で損切りあるいは30%上昇で利確。)

恒久ポートフォリオ・アプローチ

『最高の投資プランがなぜいつも失敗に終わるのか』(ハリー・ブラウン著)において「将来何が起ころうが金銭面では安心」できるポートフォリオは、

  • 株式:25%
  • 債券:25%
  • 金:25%
  • 現金:25%

となっている。
インフレ率が上昇した場合、債券は(金利上昇により)下落するが、金は逆に上昇するので相殺される。
不況の場合、金や株式の価格は下落するが、債券は(金利下落により)大きく上昇するので相殺される。
また、それぞれの資産クラスにおいてボラティリティの大きな銘柄を組み込むことにより(リスクは相殺される一方で)大きなリターンを得られる(ハイリスク・ハイリターンだが相関係数がマイナスのためにリスクは抑制)。

読後感

インデックスファンド投資ではなくて個別銘柄を購入するタイプの個人投資家向けに、投資の考え方について、広くやや浅めに記述されています。

株式投資に臨む姿勢としては知っておくべきことが多く有益なのですが、初心者が最初に読む本としては「手数料の安いインデックスファンドの積み立て推奨」のような当たり障りのない書籍のほうがお勧めです。本書では「個別銘柄ありき」で話が展開されているのでリスクは高めになります。

なお、「恒久ポートフォリオ・アプローチ」については著者(マーク・ティアー)と利害関係のある会社が組成しているファンドとの絡みで少しだけ触れられていましたが、考え方そのものは経済合理的で面白いと感じました(構成比率は異なりますがレイ・ダリオのオールシーズンズ戦略と共通した考え方)。

(了)